レジ打ちも座っていいよね? 働く環境を見直すことから見えてくるインクルージョン

レジ打ち仕事中にも腰掛けられる椅子を開発するプロジェクトがスタートしました。働く人の労働環境の見直しから、すべての人が健全に働くことについて考えてみたいと思います。
江口晋太朗 2024.04.24
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「自律協生社会を実現するための社会システム構築」を目指すため、今回はインクルージョンをテーマに、日本で先日始まったレジ打ちスタッフの立ちっぱなし問題に対して新たな提案を行う取り組みを取り上げながら、働く人の労働環境について改めて考えてみたいと思います。

スーパーのレジ打ちも座っていいよね?

スーパーなどで、レジスタッフが立ちっぱなしで作業している姿を見たことがある人は多いでしょう。スーパーや飲食店などの経験者は分かるだろうが、立ちっぱなしでレジ作業をするだけでなく、お客様対応など付随する業務に追われ、休憩時間以外に休む暇もないほど身体的に疲労もたまりやすく辛い作業です。

レジ打ちや飲食店での仕事はアルバイトやパートといった方々が活躍する一方、誰でもできる仕事、と捉えられる側面もあります。一方、身体的にも大変な労働環境において、少しでも労働環境を改善する方法がないかを考えることも大切です。

そんなレジ打ちなどの仕事中の“立ちっぱなし”問題解決を目指した取り組みがスタートしました。バイト情報サイトのマイナビバイトが立ち上げた「座ってイイッスPROJECT」はレジスタッフが仕事中にも腰掛けられる専用の椅子を開発し、プロジェクトに賛同する企業に一部配布するというものです。

プロジェクト立ち上がりに際した実態調査では、座っての接客が許されているアルバイトは23%程度であり、逆に、座っていることへのネガティブな影響がでるという回答がでていました。また、雇用主も座ることを許可していない割合も一定数あり、その理由も「なんとなく」という惰性的な感覚で立ちっぱなしをさせていたということも見えてきたようです。一方、接客されるお客側の意見として、椅子に座ってい接客されることに対して8割近くが「気にならない、問題ない」と回送するなど、座っての接客を受け入れる人が多いことが分かってきました。

こうした実態やこれまでの惰性によって立ちっぱなしを強いられていた労働環境に対して、今回のプロジェクトをきっかけに、レジ打ちスタッフが座りながら作業することが一般的に広がることや、就労環境の改善により就労の定着化などを目指しているようです。

プロジェクトに際してのPVでも、座ってレジ打ちすることを「普通のこと」と表現し、新しい普通の状態をつくり出そうとする様子が見て取れます。

座ってレジ打ちすることの議論は急に出てきたことではなく、学生らがスーパーの運営会社に交渉したことが大きく報道されたことも、「座ってイイッスPROJECT」のような動きがうまれる背景にあるはずです。

学生らがスーパーに交渉した際にも、立ちっぱなしと座りでのレジ打ちに大きな影響がないことを実際にアンケートを行って交渉するなど、エビデンスベースでしっかりと交渉を行っているのがとても印象的です。彼らの行動のように声をあげることでそこに共感した企業らが変革を起こし、社会が変わるきっかけを生み出したともいえるはずです。

「なぜ、レジ打ちは立っていないといけないのか?」という素朴な疑問を投げかけ、交渉やアンケートを取ることで、これまでなんとなくの慣習になっていたものを変えていくことはとても大切な行為です。

さらに、立つことを前提とすることで、実は見えない就労障壁になることもありえますし、必要のない行為によって疲労感や時には苦痛にもなりかねません。働く環境はできるだけ健全でより良いものであるべきという、ディーセントワーク(人間らしい仕事)という観点からも、立たなければいけない理由が無い限り、座っての対応も良いはずです。

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健常者だけでなく障害を抱えた人も働ける環境を

この「スーパーのレジ打ちの立ちor座る問題」は、健常者の問題だけにとどまらず、障害を抱えた人も含めた議論にも展開することができます。

椅子に座って対応することで、足が悪い人もレジ打ちができるようになり、さらにいえば、車椅子の人も座ってレジ打ちが可能になるかもしれません。足に障害を抱える人も、健常者と同じような就労環境によって同じような仕事を得ることで賃金を得やすい社会環境にもつながることでしょう。

「座ってイイッスPROJECT」のイメージ写真やPVで登場するレジ打ちスタッフは身体的に健常な人が働いている様子が描かれていますが、健常者のみならず、障害を抱える人も仕事に従事できるというメッセージが今後含まれくると、次なるフェーズに進むような気がします。

構造的な観点からも、障害を抱える人が仕事に従事しやすい環境を作ることは大きな社会的課題でもあります。企業側も障害者雇用対策の一環で障害者雇用が義務づけられており、2024年4月から障害者の法定雇用率が2.5%、2026年7月から2.7%に段階的に引き上げられます。

企業において、障害者に対するサービスのみならず、障害者も同等に働ける環境作りが求められます。健常者を前提としたり、健常者でしかできないような労働ではなく、あらゆる人が同じように仕事ができる環境を構築するべきではないでしょうか。

この4月から始まった「合理的配慮」の民間レベルでの義務化もそうです。合理的配慮の議論の多くは、お客側に対する合理的配慮が議論の中心となっていますが、働く人側においても同じ事が言えるはずです。合理的配慮をもとに、インクルーシブな労働環境と雇用環境を提供する、ということにもつなげるべきではないでしょうか。

インドのNeoMotionにインクルージョンの本質を感じた

合理的配慮や働く側の労働環境における健全性は、まさにディーセントワークやインクルージョンといった考え方にもリンクするものです。そのなかで、ユニークな取り組みも最後に紹介させてください。

インドのスタートアップ「NeoMotion」は、身体障害者や高齢者のために様々な製品を開発している企業です。そのプロダクトの一つであるNeoFlyは、いわゆる個々人にカスタマイズされたコンパクトな車椅子です。日本でも、WHILLのようなスタイリッシュな車椅子を開発している企業もいます。

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