2023年の振り返り:これまでに反響のあった記事と解説、2024年に向けて #27
2023年の年末ということで、これまでを少し振り返るコンテンツにしてみます。
2023年を振り返りながら、2024年以降も重要なキーワードや考え方を改めて整理してみましょう。
このニュースレターでは、日々の生活、都市、政治、環境、そして地球が直面する課題や社会構造としなやかに向き合いながら、誰もが豊かに暮らしていくための「コモングッド」となれる考え方や思想を追求していくためのヒントとなる情報やコラムを届けていきます。
これまでにも、いくつかのキーワードやトピックについて解説や論考を載せてきました。10月からは、シリーズものとして「プラットフォーム協同組合」について様々な論点や観点についてご紹介してきました。2024年からは、そうしたシリーズものやテーマなどを設けながらより深掘りした内容をお届けする予定です。
今回は、これまで配信してきた内容の中から反響の多かった記事をいくつかピックアップしてみます。
最近購読を始めた方は、過去に配信されてまだ読んでいないものがあれば年末年始の時間でご覧いただけると嬉しいです。
なお、一部の記事はサポートメンバー限定になっています。取材や執筆継続、配信内容の品質や頻度を維持していくため、サポートいただける人はぜひサポートメンバーの登録をお願いいたします。2024年は、サポートメンバー向け限定でのリサーチ記事なども配信予定です。
ますます重要になる健康と孤独との向き合い方
コロナ禍を通じて、人びとのメンタル問題や社会的な健康問題について注目がでてきました。イギリスでは「孤独問題」に関する専門の大臣が設立したのは2018年。新型コロナ流行以前から、孤独死や孤立による社会的な健康問題についてイギリスは取り組んできていました。
日本では、2021年1月に「孤独問題の担当は厚生労働省だ」という国会でも討論から、2021年2月には孤独・孤立対策担当大臣を司令塔とした孤独・孤立対策担当室が内閣官房に設置されました。その後、2022年12月には「孤独・孤立対策推進会議」で「孤独・孤立対策の重点計画」が定められ、着実に日本でも孤独問題に対する動きが始まっています。
この記事では、一足先にスタートしたイギリスにおいて、特にコロナ禍における取り組みの一部を紹介しています。政府が設置した孤独問題基金への資金提供やローカルで活動する団体らへの助成支援、他にも、様々なプロジェクトを展開していました。
「孤独問題に対応する取り組みに、芸術文化や図書館などのライブラリーへの資金が提供されていることからも、文化的基盤こそ政府が支援すべき対象であることがうかがえます」と、記事内でも触れているように、文化的な基盤が孤立問題と密接に結びついていることが意外と重要な気がします。
メンタルケアや社会的な健康について、「コロナ禍で浮き彫りになる健康とメンタルケアの関係 #2」では、自己責任論や感染症においてマイノリティから危機に瀕してしまう社会構造的な問題について触れてきました。「孤立と向き合う「ケアするまち」のデザインとは? #7」では、ドイツの哲学者ハンナ・アーレントが『全体主義の起源』で整理した「隔離(isolation)」「孤立(loneliness)」「孤独(solitute)」という3つの言葉の違いについても触れています。
個人的にも、孤立問題や社会的な健康問題については関心を高く持っていて、コロナ禍をきっかけに注目されている「公衆衛生」においても、精神的な安定や精神的な健全性の担保が健康維持や社会的なつながりを維持することにとても寄与していることが指摘されています。「健康」というキーワードを軸にすることは今後もますます重要になってくるはずです。
地域の連帯とケアを育む共同売店
協同組合についてのリサーチをするなかで出会ったのが沖縄の共同売店という存在です。
100年続く「共同売店」に関して、私自身も「愛と希望の共同売店プロジェクト」の方々から教えられたことも多く、同時に、沖縄で独自に発展した地域における連帯の姿を見ることができます。こうして共同売店についてしっかりとまとまったコンテンツがあまり多くはないのか、おかげさまで反響も大きくウェブでも閲覧数もとても多いものとなりました。
また、ちょうど朝の連ドラの舞台が沖縄だったからYahoo!個人の記事で改めて共同売店についての記事をまとめ、こちらの記事も閲覧数がそれなりに出た記事となりました。
「愛と希望の共同売店プロジェクト」の方々とのトークイベントで伺った内容でとても印象深かったものとして、共同売店へ日常的に足を運ぶことが、普段の様子を観察したり時には安否確認につながったりするような、ケア的な要素を持つ場になっていることです。
時代の変化とともに、共同売店という存在も役割や意義を変化させていきながら100年以上続く連帯の場から、私たちが共同売店から学ぶものはまだまだ多くありそうです。
実態経済を後押しするための地域通貨とは
町おこしや地域活性において、一度は導入が検討される「地域通貨」。けれども、円やドルといった通常の貨幣とは違う経済圏を構築するにあたって、地域通貨を積極的に利用するインセンティブや利用目的をうまく設定せずに、ただ単にシステムとして導入した結果、まったく使われずに終わってしまうケースも多々あります。地域通貨の歴史を見ると、死屍累々いくつもの地域通貨が登場しては消えてきた歴史があるほどです。
そのなかで、ドイツで使われている地域通貨「キーマガウアー」についての分析は、その特徴的なスキームから積極的に地域で活用されている事例として知られています。
キーマガウアーの特徴は、いわゆる「腐るお金」、つまり「時間とともに価値が減少するお金」という経済学者のシルビオ・ゲゼルが提唱する考えをもとに立案されているところです。
地域通貨の利用期限を設け、価値が減衰することによって地域通貨を手元に貯めることなく流通にまわり、その流通に関わる地元の商店の営業やNPOらの活動に地域住民らが積極的に関わりやすくなっています。さらに、地域通貨とともに地域金融機関と連携し融資を受けやすくするといった実体経済そのものにも影響を与えるような仕組みにもなっています。
実体経済を後押しする設計が、持続可能な地域通貨経済をつくり出す1つのヒントになれそうです。
社会に必要なコストを誰が引き受けるのか
社会的に必要だと理解しつつも、自分の近くには来て欲しくない言葉として使われるNIMBY。英語圏では、再開発のような街の景観や文化が損なわれるものに対しても使われるようです。その逆にYIMBY(Yes In My Back Yard)という言葉もあり、再開発を望む人達と再開発を断固拒否したい人達とで大きな対立を生むということもあるとのこと。
YINBYのような人達にとって、重要文化財や歴史的な建物の保全といったことはタブー視されがちです。自分が住んでいる街が田舎な場所で、大型のショッピングセンターやチェーン店がない地域では、開発によって街が今よりも便利になって欲しい、都市が物質的に豊かで便利になって欲しいという意見も理解できます。
ショッピングセンターのような場所はたしかに家の近くに欲しいが、墓地や焼却炉のような場所は来て欲しくない。けれども、社会的に必要な機能やそれに伴う様々な影響は、誰かがそのコストを引き受けなければなりません。貧困地域のような場所にNIMBYのような場所がしわ寄せされ、マジョリティとマイノリティによる分断が生まれる、ということも起こりえます。そうした社会的な構造が起きてしまうことを理解した上で都市のあり方を議論していかなくてはいけません。
別の記事ではNIMBYの代表例である墓地のあり方についても触れています。都市計画やまちづくりにおいて死や弔いを扱うことは少なく、「明るい都市計画」のようなものばかりがフォーカスされがちです。陰や死というものを市場や都市から切り離すのではなく、いかに私たちの生活に密接に結びつくものかを捉え直すべきです。
人との別れや死と向き合う場所が、心を落ち着かせる場所だという考えのもとに立ってみると、都市作りにおいてもこれまでと違った発想がでてくるような気がします。
プラットフォーム協同組合という世界的な潮流
シリーズで深掘りしてきた「プラットフォーム協同組合」。その根底にある「公平な経済圏」「人間らしい労働」「労働者自らによる所有権と統治権」といったものを考えるヒントになるテーマです。そのシリーズの最初に配信したもので、プラットフォーム協同組合という考え方やその背景にあるものを丁寧に紐解く内容になっています。
日本にいるとなかなか実感は難しいかもしれませんが、プラットフォーム協同組合のように地域で連帯し持続可能で人間らしい経済圏を構築しようとする動きは、今や欧州や南米、最近ではインドなど世界でも広がりをみせています。今後、海外の事例や取り組みなどもピックアップしてみたいと思います。
社会的連帯経済という考え方を歴史的な系譜で紐解く
比較的最初のほうに触れた「社会的連帯経済」という言葉。「社会的経済」と「連帯経済」が結びついた言葉で、これまでシリーズで伝えてきたプラットフォーム協同組合の取り組みともリンクしています。
社会的連帯経済という言葉は、ILO(国際労働機関)が報告書でも言及していることからも、国際的な枠組みとして一定の認知がある概念です。研究分野においても様々な分析や考察がなされています。
記事のなかではそこまで細かい内容は入れ込まず、協同組合の歴史や日本における変遷、賀川豊彦についての言及が中心の記事でした。日本における協同組合の歴史、賀川豊彦から現代に続く流れ、そこに、社会的共通資本という概念を打ち出した宇沢弘文、そして現代において社会的連帯経済という概念という一連の系譜を紐解くことが重要だと個人的に考えています。
2024年は、社会的連帯経済における最先端の研究や、過去へとさかのぼりながらそこからまた現代、そして未来へとつながるような考察や分析を蓄積していくつもりです。
2023年最後の配信はこれまでとなります。ご購読いただいているみなさん、どうもありがとうございました。
そして、2024年もどうぞよろしくお願いいたします。
記事のアイキャッチ画像は、2023年の年末に訪れた、南足柄にある大雄山最乗寺(曹洞宗のお寺で、創建に貢献した道了という僧が寺の完成とともに天狗になって身を山中に隠したと伝えられ、天狗の像が設置されている)にて。
奥の院に続く長い長い石段を登る時にもの。年末年始、今年の振り返りや新年の祈願をされる人も多いことでしょう。2024年に向けた抱負ややりたいことについてじっくり向き合いたいものですね。
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