OECDの報告書でプラットフォーム協同組合の発展のための法整備や支援体制について言及

世界で広がるプラットフォーム協同組合。今回は、プラットフォーム協同組合の可能性や今後の展開について言及されていたOECDの報告書について解説いたします。
江口晋太朗 2024.06.12
誰でも

これまで何度か取り上げてきたように、プラットフォーム協同組合とは、組合員が直接所有・管理し、ウェブサイトやアプリ等を通じて商品やサービスを販売する協同組合の取り組みのことです。

従来の巨大なプラットフォームサービスによって生まれた経済的な問題に対抗するため、自分たちでプラットフォームを立ち上げ、労働者自らで所有や経営を行うことにより、より良い労働条件や労働環境を構築し、働く人らにとっての持続可能な環境を構築しようとする動きで、近年、その概念ともに広がりをみせています。

そんなプラットフォーム協同組合について、2023年9月30日にOECD (経済協力開発機構:ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関)が、「OECD Local Economic and Employment Development (LEED) Papers(OECD諸国の地域経済と雇用開発に関する報告書)」と題した報告書で、プラットフォーム協同組合によって生まれた雇用状況についての概観や、その特徴がまとめられています。

雇用の創出のみならず、活動の拡大や発展における課題、雇用の質を高めるための政策提言などについて、報告書では言及されています。特に、政策立案者らによる政策提言の動きは、近年のプラットフォーム規制の問題とも結びついたものとして今後も政策的な取り組みがでてきそうです。ここでは、主に政策提言の箇所について報告書内でどのような言及がされたのか見てみましょう。

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プラットフォーム協同組合が抱える課題

プラットフォーム協同組合が生まれた背景や雇用問題については、ある程度、これまでも触れてきたと思います。とはいえ、依然としてAmazonやUberなどを代表とする巨大なプラットフォーム経済はいまも広がりをみせており、これらのサービスが完全に無くなることはないと思います。プラットフォーム協同組合も、あくまで既存に対するオルタナティブであり代替モデルあるということでしかありません。

広がりを見せているとはいえ、いまだ数や規模は小さく、また、法的、財政的、組織的な課題も多いことは事実です。理念や理論ではなく、実体経済として動かすことが必要です。特に、協同組合が自前でサービスやプラットフォームを運営し、一定の経済圏をつくり出すには、事業がきちんと立ち上がり、一定規模まで成長しなければいけません。また、プラットフォーム協同組合で働く人は、全員がサービス提供者ではなく、一定数は本部機能(マーケティングやPR、技術開発)が必要であり、優秀な人材も集めなければいけません。

他にも、協同組合という法人形態が、時に国や自治体の法律や条令によっては、オンライン総会などが開催できないといった法的な問題もありそうです。また、国によっては協同組合の組合員になるには居住要件が求められたり、組合員の議決権行使のためには物理的な出席が必須となっていることも。

近年では、企業の株主総会でも、オンライン総会やデジタルによる議決権行使が行われていますが、協同組合においても、そうした総会や組合員らのデジタルによる議決権高知のための法整備も必要でしょう。これらの問題を解消するために、政策立案や政策提言による法改正や規制緩和などの取り組みが必要なのです。

プラットフォーム協同組合がきちんと持続可能な運営体制をつくるためにも、一般的な企業と同様に、資金調達や設立条件、プラットフォーム協同組合のニーズや組織に適した柔軟な労働形態などが必要だと、報告書でも指摘されています。

具体的に、報告書では以下のような言及がされています。

・必要な規模の創業資金を支援する体制構築

通常の企業と同様に、立ち上げ期における様々な支援体制が必要です。パートナーシップや助成金、創業のための融資など資金需要を支える取り組み全般を構築することで、事業立ち上げ期の様々な課題を支える一つとなります。

・プラットフォーム協同組合と民間企業による連携

資金提供やパートナーシップ、ナレッジシェア。さらに、社会的、経済的、環境的なインパクトを生み出そうとする民間企業・団体例えば社会的サービスの提供や循環型経済で活動する団体らと、積極的なパートナーシップを構築することで、プラットフォーム協同組合の社会的価値を広げ、認知拡大や収益確保につながる動きへと発展していくことでしょう。

・社会的調達を利用したプラットフォーム協同組合の収益源の確保

「社会的調達」とは、いわば「社会的責任に配慮した調達方法」のことで、SDGsやESGの観点において、民間企業において自社サービス内容のみならず、そのサプライチェーンにおいても環境保全や人権的観点等に留意することが求められており、こうした「社会的調達」の調達先としてプラットフォーム協同組合に発注すべきだ、という言及です。

単純な仕入関連の調達のみならず、社会的課題に対して連携して取り組むことで、中長期的な立場で公共的価値を生み出すことも期待されています。

報告書内でも、プラットフォーム協同組合が地方公共団体と公共調達契約を結び、自治体とともに雇用の創出や地域コミュニティへの貢献といった公的価値の創出につなげているという事例が紹介されていました。

・プラットフォーム協同組合の成長を促進するための税制優遇措置の検討

さらに、プラットフォーム協同組合の運営を支えるための税制優遇措置についての提案が報告書では触れられています。

特に、グリーン分野や介護領域といった、プラットフォーム協同組合と相性のよい領域において、プラットフォーム協同組合が同分野に参入し新たな事業を生み出すことによる社会的価値にも触れています。

また、既存の企業が協同組合に事業を売却(つまり事業の運営を協同組合が行う)ことに対して、税制優遇し、事業主体をプラットフォーム協同組合に代えていくといった提案もなされています。

・プラットフォーム協同組合のための法整備と適応

プラットフォーム協同組合がデジタル経済に合わせて機能するための法的枠組みの開発についても触れられています。例えば、協同組合を設立するための様々な要件における規制緩和など、協同組合に係る法改正の提案です。

プラットフォーム協同組合で働く労働者の取扱いについての労働形態についての整理や労基法といった関連法案の見直しも言及されています。労働に関する権利や保護を整理しながら、組合員が安心して働ける環境をつくるべきだ、と記載されています。

・プラットフォーム協同組合のためのビジネス支援

まだまだプラットフォーム協同組合そのものはマイナーな団体であり、数も規模も大きくありません。そこで、こうした新たな組織作りを支えるためのセミナーやワークショップ、メンタリングや研修キットの開発など、プラットフォーム協同組合に特化した開発プログラムが必要です。

組織運営に必要な知識、組織開発ナレッジなど、既存の会社とはまた違った運営方法やマネジメントが求められそうです。人材支援、技術支援、組織開発、それらを支える教育プログラム、プラットフォーム協同組合同士のネットワークや活動そのものを社会的に訴え促進させるイニシアティブの設立など、プラットフォーム協同組合そのものを増やすだけでなく、公共機関、教育機関、企業間の連携といったセクター横断の運動体を生み出すことへの期待が高まっています。

日本での広がりはこれから

日本では、そもそも論としてプラットフォーム協同組合という言葉や考えはまだ広まっていませんが、一昨年に設立した労働者協同組合法によって、労働者協同組合が設立可能となったことで、プラットフォーム協同組合的な組織・事業体を作ることができるようになったと思います。

ただ、まだまだ人材や技術的な課題からプラットフォーム化できるほどの経済規模やビジネスモデルが構築できているところは少なく、今後の課題といえるでしょう。

海外の取り組みなどを参照しながら、日本におけるプラットフォーム協同組合の可能性やあり方についての議論が広まるよう、引き続き、このあたりのテーマや領域については深掘りしていけたらと思います。

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