子どもとインターネットとプライバシーを考える #19

インターネットはもはや私たちの身近な存在です。だからこそ子どもも大人も考えたいネットリテラシー。最近では、教育現場では「デジタルシティズンシップ」という言葉も登場してきています。
江口晋太朗 2023.09.28
誰でも

🌟point of view

先日、5歳の誕生日を迎えたうちの子どもに、親戚からプレゼントとしてAmazon Fireのキッズモデルをいただきました。いわゆる子ども用のタブレットで、3歳以上から小学生くらいまでを対象に、絵本や学習マンガ、ひらがなや漢字、数字の練習といったアプリがダウンロードできます。

10月には最新モデルのキッズプロが販売されるようで、プログラミングアプリや小学生新聞、英語学習などがダウンロードできるらしい。これらのタブレットにはペアレンツコントロールがついており、使用時間の制限やアプリの利用状況の把握、特定のコンテンツを一定時間閲覧しないとゲームやアプリが作動しない、などの細かい制限設定ができる代物です。

子どもの頃から、こうしたタブレットや情報通信端末を触るにあたって、いきなり自由に使わせるのではなく、その使い方やネットとの接し方についてもしっかりと考えていかないといけません。

デジタル空間における権利、安全で合法的倫理的な方法による行動や活用方法についての理解を促す教育概念として「デジタルシティズンシップ」という言葉も登場しています。言葉そのものは2000年後半頃から世界的で次第にいわれはじめ、日本の教育現場でもその重要性について叫ばれはじめています。以前に雑誌『WIRED』で記事を書いた際にも、この「デジタルシティズンシップ」をこれからのデジタル社会で生きるキーワードとして紹介したことがあります(GLOCOM豊福さんのスライドなどにも詳細がまとまっています)

*総務省がまとめた親と子どもが一緒になってデジタルコンテンツをどのように接するかがまとまってる「家庭で学ぶデジタルシティズンシップ教育」の資料も役立ちそうです。

大人こそ向き合うべきネットリテラシー

子どものネットリテラシーについて考えるとともに、その親(いわゆる、私たちの世代)のネットの接し方も同様に考える必要があります。

SNSなどの登場によって爆発的に情報量が拡大した結果、フィルターバブルやエコチェンバーといった偏った情報ばかりを収集することによって、その人の考えや行動が変容する、といったあちらこちらでも言われているとおりですし、ネット空間における炎上による不幸な出来事や個人情報の漏洩などが社会問題化しているということは多くの人が理解しているはずです。

さらには、親世代の何気ないSNSの投稿が、子どもの将来に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。例えば、子どもの様子を写真やテキストでSNSに投稿する人は多いでしょう。そうした投稿そのものを否定する気はありませんが、私自身は、SNS上に子どもの写真やその様子を上げないように心がけています。

子どもが生まれてすぐの頃、そうした考えをnoteにまとめたのを思い出しました。

書いた頃から、もう4,5年ほど経ちますが、ここで書いた内容は今でも同じように考えています。このブログにも書いたとおり、子どもにもある種の権利が存在し、自身の様子を勝手にSNS、ひいてはインターネットというデジタル空間に共有されることのリスクをどの程度考えるのか、ということにつきると思います。

ネットミーム化と忘れられる権利

子どものふざけた様子や内容が、時にネット上で炎上したりネット上の話題の種(いわゆる、ネットミーム化)になったりすることがあります。それこそ、古くはプリクラ写真の「チャリで来た」などはその典型例でしょうし、最近では「ひき肉です」と挨拶をする中学生Youtuberの動画も、すぐさまネット上でネットミーム化され消費の対象とされたりしています。

「ネットミーム化」はアニメやマンガなどにおける描写などがある種の流行やみんなが乗っかりやすいコンテンツによって様々な改変(いわゆるN次創作)されることの面白さがありますが、アニメやマンガと違い、実写での子どものふざけた様子やばっちりと顔などが映っていると、後々においてどのような影響を及ぼすか、もはや誰も把握できません。

顔やTwitterなどの情報から名前や住んでる場所、通ってる学校を特定する「特定班」もいて、個人のプライバシーが丸裸にされることはしばし起こります。ネット上の個人情報の扱い方について、「忘れられる権利」というものが一方でありますが、「忘れられる権利」というインターネット上の個人情報を検索結果などから削除するといったことも、ネット上のすべての情報に対処できるわけではなく、個人情報に関する検索結果や過去の自らの記事といった具体的と違い写真や動画といった細かなコンテンツまでを削除することは現実的にはなかなか難しい問題があります。

現実問題として、炎上したりネットミーム化されたりしたようなものは、もはや一種にデジタルタトゥーとして、なにかしらの痕跡を残してネット上に存在してしまう、ということが起こりえるのです。

インターネット上に情報をあげるという行為そのものは、かつてはポジティブなものとして捉えられていたものの、これからAIなどは発展するなかにおいて、改めてネット・デジタル空間に情報をあげるということについての社会的な共通認識や共通理解を促す必要がありそうです。

ドイツ・テレコムの広告が訴えるAIとプライバシー

ドイツテレコムが今春にこのような広告動画をあげて話題になりました。

子どもの何気ない写真や動画から、ディープフェイク動画が作られたり、AIによって偽装された音声が作られ、そこから詐欺や犯罪に発展する可能性があるということ、何気ない情報が子どもに大きな影響を与えてしまう可能性があるということ、その問題の奥深さを動画では指摘しています。

先日も、AIによる偽音声が問題視されているという報道もでてきています。

インターネット上にある情報は、すべてデータ化され、なにかしらの情報に統合されていく。だからこそ、子どものデータを親は必要以上に保護する必要性があります。デジタル空間における接し方は、私たち大人側も日々考えていかなくてはいけない問題だと認識したいものです。

まだまだ世代によっては「SNSごとき」「すぐにみんな忘れるよ」「話題になるだけマシだ」ということを言う人もいます。しかし、今後ますますSNSを含めたデジタルツールやインターネット上の情報が現実世界に大きな影響を与えるということ、デジタル空間はあらゆる情報がデータとして蓄積され、容易にコピペされることにより情報そのものが様々な形でその痕跡を残し続けること、そして、その代償や結果を誰も予想できなくなる、ということに気づかなくてはいけません。

かつて、アンディーウォーホルは「人は誰でもその生涯で15分だけは有名になれる」という言葉を残しました。インターネットが登場し、誰もが発言権を得、ネットを通じて一瞬で有名人になったりこれまで光の当たることのなかった人が一役スターダムの仲間入りになったりすることもあるでしょう。しかし、有名になることそのものと、その代償やその裏側にあるリスクが肥大化する時代、ウォーホールのこの言葉の続きを紡ぐ必要がありそうです。

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⚡︎news

バスが移動販売車に

以前に、愛媛県の大洲市で活動している共同売店方式の「ミニスーパー豊茂」が移動販売車を運営し、買い物難民や地域の高齢者の生活を支えているという取り組みを紹介したかと思います。

こうした取り組みは世界各地で広がっています。一般的に移動販売車の多くはミニバン程度の小型の車両が多いなか、ドイツではバスを使った移動販売車(記事タイトルでは「移動スーパー」と書かれる)がスタートしました。

全長18メートルの連結バスで、たしかに「移動スーパー」と言えるほどの規模です。取り組みは小売店とドイツ鉄道とが連携した実証実験で、店舗を構える初期コスト・ランニングコストが抑えられますし、ドライバーとスタッフがいればどうにかまわりそうです。

もちろんこの背景には買い物難民が問題化しているのですが、バスが地域内のハブとなる場所に適宜移動し、その場が瞬間的なマーケットとなるという風景は、古くて新しい取り組みかもしれません。

小売店は2025年3月まで実証を行ったあと、サービスを拡大するか検討するようです。日本でも、買い物難民が課題となっている地域に対して、バスによる移動販売が始まっても面白いかもしれません。

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📕topics

子どもの探求を育み、個々人に最適な学びの場をつくる

家の近くでアフタースクール「マナビノキ」を運営している末原さんのインタビューが掲載されました。うちにもよく遊びに来る末原さん、子どもの教育に真剣に向き合い、個々人にあった学びの形や機会を提供するために試行錯誤をしている方です。

うちの子はまだ小学生ではないのですが、時折遊びに行かせてもらっていますし、妻もマナビノキの活動を一部お手伝いしたりしています。

インタビューでもあるように、個々人の成長や最適な学びの場をどう提供するか。自分自身が親になったことで、自分の子どもももちろんですし、次世代の子ども達すべてに対して、どのようなバトンを渡せるかをいつも考えています。

こうした学びの場があることはとても大切ですし、私なりにも、こうした場をサポートできたらな、と思います。

魚食ワークショップで魚をもっと身近に

以前にこのニュースレターで紹介した、鎌倉・今泉台にある「サカナヤマルカマ」で、豊かな魚食を考える「マルカマクラブ」というプロジェクトがスタートしました。そのプロジェクトの一環として、「一尾のサカナをまるごと味わう」という親子参加による連続ワークショップがスタートしました。

魚のプロであるウエカツさん指導のもと、一回目は捌く、二回目は焼く、三回目は煮るをテーマに、子どもでもできるお魚の調理法や魚の楽しみ方を学ぶ(そして、レクチャーの最後には美味しいお魚料理を味わう)企画で、その第一回目が先日開催されました。

大人でもなかなか魚を捌くのもしたことがない人も多いのではないでしょうか。子どもの頃から、こうした機会を持ちながら、魚食文化そのものを深く理解する機会がもっと身近にできてほしいですね。

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🍹chatting

季節は秋となりましたが、この夏の思い出といえば、家の裏山の竹藪から竹を切り出して、自宅で流しそうめんをしたことかもしれません。

友人家族やご近所お友達らの子ども達も流しそうめんを楽しく味わってくれて良き思い出でした。

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