人を市場に合わせない経済へ――国際協同組合年の先に考えるべきこと

しばらく間が空きましたが、「コモングッドをもとめて」を再開します。再開最初のテーマは、2025年の国際協同組合年。その先にある「協同」の可能性と、これからの経済や社会の器について考えます。
江口晋太朗 2026.07.13
誰でも

しばらく更新が空いてしまいました。「コモングッドをもとめて」を、また少しずつ続けていきます。

2024年後半から仕事も家庭環境も大きく変化し、さらに2025年度から、仕事もしつつ法政大学大学院 連帯社会インスティテュートに通いはじめました。労働組合、協同組合、NPOのそれぞれについて理解を深めながら、これからの社会において必要な組織のあり方、市民協働のあり方について考えを深めています。大学院の授業はどれも刺激的で学びが深いものなのですが、いかんせん、平日夜と土曜日の授業、それに日中の仕事や家庭のことなどもあり、なかなかニュースレターの更新が滞っておりました。大変失礼しました。

少しリズムも整えつつ、修士のレポートの息抜きに、協同組合のあり方や世界の動向など、リサーチしたものをアウトプットできる場にできたらと考えています。

このニュースレターでお伝えしたいことは、再開しても変わりません。ひとことで言えば、人を市場に合わせるのではなく、人の尊厳・関係性・地域性のほうに合わせて、経済の「器」を考え直すこと——その手がかりになる情報を届ける、ということです。協同組合も、NPOも、地域の共助の場についての思考を深めながら、「誰が主体になり、誰が決め、利益は何のために使い、責任を誰が負うのか」。その設計についてこれからも考えていきたいと思っています。

再開の一通目として、国際協同組合年(IYC2025)について整理したいと思います。

「協同組合の一年」が、静かに終わった

2026年も半分を過ぎたタイミングではありますが、2025年は、国連が定めた国際協同組合年でした。テーマは「協同組合はよりよい世界を築きます(Cooperatives Build a Better World)」。国連は世界共通の重要テーマに「国際年」を設けますが、協同組合がその対象になるのは2012年に続いて2回目です。同じ国際年が二度設定されるのは異例のことで、それだけ、いま協同組合という仕組みに国際的な期待が寄せられている証左ともいえます。

日本でも一年を通じて、農協・生協・労協・大学生協などが参加する全国実行委員会のもとで、シンポジウムや学習会、大阪・関西万博での海外協同組合との連携イベントなど、数多くの企画が開かれました。

ただ、こうした「国際年」には、いつも同じ難しさがつきまといます。一年が終わると、関心も一緒に終わってしまうことです。記念行事は華やかでも、暮らしや仕事の現場が実際に変わらなければ、それは一過性のキャンペーンにすぎません。

祝福や記念キャンペーンをしたその先が重要です。理念は、現場に下りてきたのか。その一つとして、日本では2022年に法律が施行された労働者協同組合に注目してみました。

数字で見る協同の現場

労働者協同組合法は、2022年10月1日に施行されました。働く人自身が①出資し、②運営に意見を反映させ、③その事業に従事する——この三つを基本原理とする、新しい法人のかたちです。株式会社が「出資・経営・労働」を分けるのに対して、労協はそれを同じ人たちが担います。介護や子育て支援、地域づくりの現場で、法人格を持てずに任意団体やNPOとして活動してきた人たちにとって、ようやく用意された「器」でした。

施行から3年あまり。厚生労働省の資料によれば、2026年1月1日時点で、全国37都道府県に177の労働者協同組合が設立されています。施行直後からの推移を見ると、設立数は着実に増え続けてきました。

設立法人のうち14法人は、非営利性を徹底した組合として都道府県知事の認定を受けた「特定労働者協同組合」です。事業分野は、医療・介護・福祉、小売・物流に加え、見守りや家まわりの軽作業といった「暮らしの困りごと支援」など、エッセンシャルサービスが全体の約7割を占めています。

NPO法人や企業組合からの組織変更(移行)を認める経過措置は、2025年9月30日で期限を迎えました。これまで別の器で活動してきた団体が、労協へ「住み替える」窓口は、ひとつ閉じたことになります。

派手な数字ではありません。177という数は、日本の法人全体から見れば、ごくわずかです。けれど私は、ここに二つの意味を読み取りたいと思います。

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読み解き:器を変えると、何が変わるのか

ひとつめは、労働者協同組合が、地域の生活基盤(エッセンシャルサービス)に集中しているということです。

ケア、見守り、移動、買い物の支え。どれも、市場に任せれば「採算が合わない」とされ、撤退や縮小が進んできた領域です。労協が約7割をそこに振り向けているのは偶然ではありません。出資した人が同時に働き手であり、利益の最大化ではなく「この地域の困りごとを解くこと」を目的に置けるから、株式会社のモデルでは扱いきれなかった仕事を引き受けられる。器が変わると、引き受けられる仕事の範囲が変わる——それが、177の現場が示していることです。

ふたつめは、「支援される人」と「担い手」の境界が動くということです。

これまで、地域の課題はしばしば「行政が支える/企業が請け負う/住民は受け取る」という形で整理されてきました。労協の三原則は、その形を組み替えます。働く人が出資者であり、運営に声を持つ。利用者だった人が、担い手の側にまわる回路が、制度として用意される。つまり、当事者を保護の対象ではなく、経済と関係性の主体として捉えるということを、法人格のレベルで実装したものだと言えます。

とはいえ、労協が直面する課題も山積

ここで「だから労協はすばらしい」と書いて終わるつもりはありません。正直に言えば、課題のほうがまだ大きい段階です。177という規模は、社会の仕組みを動かすにはまだ小さい。設立はしやすい(行政の認可を要しない準則主義です)反面、事業として継続できるか、担い手をどう確保し続けるか、ガバナンスをどう成熟させるかは、これからの一つひとつの現場にかかっています。

実際に、大学院の連帯社会インスティテュートでも、労協を設立した団体の方々に登壇いただいた研究会があるなかで、事業の継続性について議論したことがあります。すでにある程度収益源が確保されていたり、既存の医療法人や介護施設が労協を設立しそこに業務を発注するなど、すでに一定の発注先や営業先が確保されているところはよいですが、新規法人として立ち上げたところは、株式会社やNPOなど他の法人と同様に立ち上げ期としての売上確保、収益源確保に奔走しなくてはいけないのは同じです。

そうした意味で、しっかりと労働に従事した人にしっかりとした賃金が支払われる状態になっている労協がどの程度はいるか、リサーチはできていませんが考えるべき要素の一つではあります。理念を語ることと、財源・人・制度の制約のなかでそれを「回る仕組み」にすることのあいだには、まだ距離があります。

それでも、いえ、だからこそ、と言うべきかもしれません。孤立、ケアの担い手不足、地域の衰退、公共サービスの縮小。こうした課題は、これからむしろ増えていきます。そのとき、「出資・労働・利用・運営・地域参加」の組み合わせを設計し直せる発想は、周縁的なものではなく、次の社会の基礎設計に近づいているポジティブな面とも言えます。

国際協同組合年は終わりました。けれど、問いはここから始まります。まだまだ現場ならではの模索は続きますが、私たち自身のこれからの社会のあり方と照らしあわせながら、持続可能かつすべての働く人達、すべての関わる人たちにとって好循環となる仕組みや取り組みは考えていきたいものです。

国連が「協同組合年を10年ごとに開催」する決議を採択

そんな2025年の国際協働組合年を受け、国連総会は決議A/RES/80/182を採択し、2012年と2025年の国際協同組合年の成功を受けて、社会・経済発展を進めるために10年ごとに国際協同組合年を開催することを求めました。この決議は2025年12月に採択されたため、次回の国際協同組合年は2035年となります。

国連決議は各国政府に対し、以下の措置を通じて協同組合への支援を強化するよう求めています。

  • 法的・規制の枠組みの改善

  • 資金調達へのアクセス向上と公正な課税

  • 農業協同組合および金融協同組合への支援

  • デジタルアクセスの拡大

  • 研究、データ収集、および一般市民の意識向上の強化

  • 参加および指導的立場におけるジェンダー平等の促進

協同組合のみならず、公平性や人権、ジェンダー、そしてサステナビリティといった問題に共通するものであり、日本や国際社会でどのような施策が取り組まれていくか、注目していきたいと思います。

国際協同組合同盟(ICA)が2026〜2030年の新戦略を発表

国際協働組合同盟(ICA)は2026〜2030年の戦略「Practice, Promote and Protect(実践・促進・保護)」を公表しました。協同組合事業を強化し、経済的民主主義を世界的に広げるためのロードマップで、気候変動・格差・制度への信頼低下といった課題への解決策として協同組合を位置づけています。

あわせて、世界の大規模な協同組合・共済のリーダーが集う「CM50」が、政策立案者に5つの優先課題(協同組合モデルの公式な承認、持続可能な資金へのアクセスなど)を求める「新しいグローバル経済のための契約」を発表しました。

「協同組合が資金にアクセスできない」という論点は、インパクト投資・ブレンディッドファイナンスといったソーシャルファイナンス分野にもつながるものであり、協同組合内にこそこれらの議論がますます必要だと考えます。しかし、日本においてはソーシャルファイナンス分野はインパクト投資や株式投資が主流であり、いかにファイナンス関連の取り組みと協同組合との距離が近くなるかが今後問われてきそうです。

韓国:12年待った「社会的連帯経済基本法」が国会採決へ

社会的連帯経済に関する取り組みが日本でも少しづつ議論が始まっていますが、まだまだ大きなムーブメントにはなりきれていない印象があります。そんななか、アジアにおいて先んじているのが韓国です。韓国では、協同組合基本法を制定し協同組合を持続可能な経済の基盤として位置づけています。

そんな韓国において、協同組合も踏まえた社会的連帯経済についての基本法も議論されていましが、12年以上たな晒しになっていました。そんなついに社会的連帯経済基本法が国会本会議の採決に近づき、各自治体に専門組織やファンドが新設される可能性が高まっていると報じられています。

すでにソウルや京畿など14の自治体が、両極化・ケアの空白・地域消滅への対応を目的とした社会的連帯経済ファンドを運営しています。隣国のリアルタイムの法整備として、追い続ける価値がありますので、韓国の取り組みはこれからチェックしていきたいと考えています。

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