地域文化拠点としての「銭湯」の可能性、そして再生へ #6

公衆浴場としての銭湯の歴史を踏まえ、現代においては社交の場や地域コミュニティの場としての機能も期待される、銭湯の可能性や銭湯再生に向けた団体を設立しました。
江口晋太朗 2021.03.29
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各地を訪れる際に、可能ならできるだけ立ち寄りたい場所があります。

一つは「本屋」です。特に、大型書店ではなく地域の書店、地場ならではの小さな本屋を巡り、どんな本が置いてあるか、どんな棚かを見て回ります。

観光ガイド本や地域の歴史棚、地域の出版社が出している少部数の本や自費出版の書籍など、その地域でしか手に入らない本、普段目にしない貴重な本や珍しい本が置いてあることも。新刊コーナーや人文系の棚、文芸・文学コーナーの選書など一通りの棚の様子を見れば、その書店の店主や書店員のイメージが湧いてきます。

新刊書店だけでなく、古本屋を巡るとその面白さはさらに増します。古本屋のラインナップから、地域の人たちの教養や文化度合いの高さに驚くこともよくあります。その地域ならではの風土や文化の一端を感じさせられる場所として、本屋はとても最適です。

もう一つが「銭湯」です。いわゆる「公衆浴場」というあり方そのものは、紀元前のインダス文明時代には大規模な公衆浴場が設備され、映画『テルマエ・ロマエ』のような古代ギリシャ・ローマ時代のものなどは知ってる人も多いでしょう。

日本で銭湯は江戸時代には庶民に広まり、「町ごとに風呂あり」と言われるほどでした。ただ単に流した汗を流す場所だけでなく、古いところでは、銭湯の中や横に長屋があったり、かつて湯女が客をもてなした広間を浴客に開放し、お茶を飲んだりご飯を食べたり、囲碁や将棋を楽しむ社交場として利用されるようになりました。

公衆浴場そのものは、各都道府県の公衆浴場条例で定められており、「日常生活における保健衛生上必要な入浴のために設けられた公衆浴場」とされています。しかし、特に戦後は各家庭に家庭風呂が普及したこともあり、単純なお風呂という機能そのものは衰退していきつつあります。一方、社交の場やコミュニティとしての銭湯という価値はいまだ健全、もしくは、今だからこそそうした価値を認識する流れになってきているように思えます。

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減少する銭湯

現在の銭湯の件数は、最盛期の約4分の1以下、4000軒を切るまで減少しています。都内においては、平成17年(2005年)に1025軒あったのが、平成29年(2017年)には562軒にまで減少、令和2年(2020年)にはついに500軒を切ったとされています。

筆者作成(参照:東京都生活文化局消費生活部生活安全課公衆浴場 )

筆者作成(参照:東京都生活文化局消費生活部生活安全課公衆浴場 )

地方を見ると「スーパー銭湯」と呼ばれる食事スペースの充実やアミューズメント施設のような場所が増えていて、家族で長時間過ごすこともできるようになっています。家族で楽しむということにおいては良いですが、あくまでサービスやエンターテインメントとしての場所であり、場所性などのは少し切り離されたような施設かもしれません。

一方、いまだ健在の銭湯は、デザイナーズ銭湯と呼ばれるようなモダンなデザインに仕上げた場所に改装するなど変化が起きつつあります。伝統的な部分を残しつつ、新しいコンセプトを打ち出し、個性的な外観や内観を工夫している点もあり、若い人たちを呼び込みながら、銭湯が持つ社交の場や地域コミュニティの場としての可能性を引き出すために様々な経営努力をしているところもでてきています。

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