「共同売店」という古くて新しい相互扶助の仕組みとは #8

沖縄で100年以上続く「共同売店」。地域の協同組合的組織として、独自の特色をもとに村落住民らによって出資・運営されてきた歴史を振り返りながら、地域のこれからについて考えてみたいと思います。
江口晋太朗 2021.05.11
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信用組合などをはじめとした協同組合組織について、ニュースレターでも触れてきました。

19世紀にイギリスで生まれた「ロッジデール公正開拓者組合」を皮切りに、世界でその概念や仕組みが浸透し、現在では市民経済の礎や基盤となる組織や団体、サービスが広がっており、地域包摂的な色合いが次第に強くなりつつあります。

そんな協同組合的組織は、国や地域が変わればその形やあり方、地域における必要性や運営形態などは様々です。

そして、日本において独自の活動で今なお継続して運営されているのが、沖縄にある「共同売店」です。

沖縄で100年以上続く「共同売店」とは

共同売店とは、小さな集落生活を維持するため住民らが出資・運営する集落単位の共同体で、沖縄本島や離島の一部に存立する商店です。その起源は、1906年に国頭村の「奥」という集落で生まれた「奥共同(売)店」です。

共同売店に関する調査研究は、南島文化研究所という沖縄国際大学内の研究所で長きに渡って調査研究されており、沖縄独自の文化の発展やその過程がつぶさにまとめられています。

興味がある人は、ぜひ南島文化研究所叢書の『<a href="https://amzn.to/3bdKJag">共同売店び新たなかたちを求めて-沖縄における役割・課題・展望</a>-』をご覧ください

興味がある人は、ぜひ南島文化研究所叢書の『共同売店び新たなかたちを求めて-沖縄における役割・課題・展望-』をご覧ください

共同売店は、基本的に「字」による区画で、概ね一つの村落から構成され、字の全住民の出資によって運営されています。

共同売店は村落の中で唯一の商店街であるところも少なくなく、共同売店が村落の「まち」を果たしています。また、共同売店の隣接には私設の公民館(沖縄には、公設の公民館と私設の公民館が共存している)があることも多く、地域や集落の中心地として共同売店や公民館が機能しています。

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生産、購買、販売など多様な役割を果たしてきた

村民らが出資をして設立・運営することから、共同売店は村落所有の共同財産として管理運営されていて、その運営体制も独特のものがあります。

1957年に発表された『琉球村落の研究-国頭村奥区調査報告-』によると以下のような記述がされています。

当時の奥の共同店の事業は生産、購買、販売、信用の各分野に及んでいる。生産事業においては、製茶業、精米業、酒造業、電灯業、購買事業では区民の必要とする消費物資を取扱い、販売事業としては区民から買い取った林産物、農産物等を外部に搬出売却する。信用事業においては、区民に対して信用授受の業務を行うと共に余裕金の投資を行う。
『琉球村落の研究-国頭村奥区調査報告-』

つまり、共同売店は村落経済を発展させるため、地域産業の核として生産に携わり、さらに、地域住民らから買い取った物資を外部に販売する行商的な役割、そして共同購入による生協的な役割や、融資や病院などの見舞金など共済(保険)機能といった金融的存在など、複数の機能や役割を有した存在であることがわかります。

また、管理運営においては村会議員と同様に共同売店の主任も選挙で選出し、毎年の売り上げ帳簿の開示や情報公開などを総会を通じて承認される運営体制が取られています。

もちろん、村民らが出資をして設立・運営すると言っても、歴史的な過程をみても、その実は運営を継続し続けるのには多くの苦労や管理体制の難しさなどがあります。

当時、日本では1900年に産業組合法が成立したことを受け、沖縄にも産業組合の流れが入り始めてきました。ここでは割愛しますが、奥共同店でも一時、産業組合に切り替えたものの、数年で運営が立ちゆかず、解散したという経緯もあります。

また、基本的に運営に携わるのは同じ「字」の住民同士であることから、「厳しい掟」「厳しい人間関係」など、村落という限られた人間関係の難しさも抱えており、共同売店がある種のユートピア的共同体幻想に対する懸念も指摘されています。

商業の共同化」を通じて村民の共同の利益を確保するというあり方が、沖縄村落における生活においても仕事においても必要不可欠なものとして広がっていき、沖縄各地で多くの共同売店が設置されてきました。

その後、第二次世界大戦をはさみ、1951年にアメリカ合衆国の管轄下におかれ、1972年の沖縄返還などを経て、1980年代以降、共同売店は次第に低迷の一途をたどるようになります。沖縄本島の北部や離島では道路などのインフラ整備が急速に進み始め、同時に過疎化と高齢化が加速していったことが大きな要因です。

「字」単位ごとに展開されていった共同売店は、中心市街地を中心に閉店が相次ぎます。今では、数えるほどの数しか共同売店は残っていない状況です。

幅広く展開していた共同売店の事業も、その多くがごく一部の生産事業以外は購買事業など限られた事業にまで縮小しており、いまや、ぱっと見は地域のコンビニと同じようなたたずまいになっているのが現状かもしれません。

地域福祉的役割を見出し始めた

一方、現在の共同売店は、交通が不便な場所が今なお存続する状況で、この不思議な状況に研究者らが着目し、2000年頃から共同売店の持つ新たな可能性として、地域への包摂性が注目されるようになります。

日本社会もこの頃から「買い物難民」や「地域包括ケア」などの議論が盛んにされ始める時期と重なります。実際に、「買い物難民」問題について書かれた書籍で、共同売店に言及される(『「買い物難民」をなくせ!消える商店街、孤立する高齢者』杉田聡)など、いわば地域福祉的な機能や、地域の情報交換の場としての共同売店というあり方が次第に浮かび上がってきているのです。

「商業の共同化」という当初の目的から地域内の相互扶助、地域コミュニティのハブや居場所作りといった役割へと歴史や社会の変化とともに次第に変容していっている共同売店は、地域経済における共同購入や共同販売という枠を超えて、地域のリビングとして機能を有しながら、現代における地域の商店の役割を見直し、あるべき姿の可能性を見出すことができるかもしれません。

「共同売店」の今とこれからを考える

そんな共同売店についてリサーチや活動を行う「愛と希望の共同売店プロジェクト」の山田沙紀さん・小林未歩さんをゲストにお迎えし、コモングッドトークの第2回目を5月23日に開催いたします。共同売店の歴史を紐解きながら、地域の相互扶助のこれからについて幅広く議論する時間にできたらと考えています。

第1回目のゲストには、医師で社会的処方的アプローチから「ケアするまち」づくりを取り組んでいる守本さんをお呼びしました。アプローチなどは違うものの、地域におけるつながりづくりや居場所作りといったものに共通性が見いだせる気がします。

このトークは、ニュースレター「コモングッドをもとめて」と学芸出版社のがくげいラボによるコラボのもと、「コモングッドトーク」というトークセッションシリーズを定期的に開催するシリーズの一環です。今後、継続的にイベントは開催していきます。また、このニュースレターの購読者限定で、イベントレポートも掲載していきます。

【イベント概要】
日時|2021年5月23日(日)15:00〜17:00
会場|オンライン(Zoomミーティング)
配信URL|お申し込みいたいだいた方に、peatixメールにてお知らせ致します。
参加費|一般参加:1,000円
https://commongood-talk1.peatix.com/view
定員|100名
主催|株式会社トーキョーベータ、学芸出版社(コモングッドをもとめて×がくげいラボ コラボ企画)

<ゲスト>
山田 沙紀(やまだ・さき)|愛と希望の共同売店プロジェクト
東京で生まれ、自分のルーツを辿って沖縄へ移住。山田図画工作屋という屋号で、名護東海岸を拠点に活動。絵を描き、言葉を紡ぐこともあれば、イベントやワークショップを作ることもあります。これからも残していきたいとおもう、沖縄の食や農業、生活文化について伝えつなぐために山田のできることが役に立てばいいなと思っています。いつだって、食べるために頑張り、食べたから頑張る精神で。

小林 未歩(こばやし・みほ)|愛と希望の共同売店プロジェクト
東京生まれのイラストレーター/デザイナー。絵本タッチのイラストからテクニカルイラストまでなんでもござれ。主に紙媒体のグラフィックデザインを手がける。東京を出て那覇で2年過ごした後、福岡県の上毛町で仕事を地域に関わる仕事をしていた時に共同売店を知ってからというもの、福岡と沖縄を行き来しながら共同売店と地域のデザインあれこれに携わる毎日。映画好きで猫好き。

*以下、購読者限定にて、イベントの割引コードを配布いたします。

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