イギリスが重要課題と掲げる「孤独」問題 #3
前回のニュースレターで、メンタルケアについて触れました。
折しも、国会では1月28日に行われた参院予算委員会で、「孤独問題」を担当する閣僚は誰か、と問われたときに、菅首相は厚生労働大臣だと答えました(当の本人である田村厚労大臣は事前に聞いて無かったと言わんばかりの顔だった、などと報道されていましたが)。
日本でも、新型コロナウイルスの広がりで不登校や自殺問題がますます顕在されきています。個人的には、新型コロナウイルス以前から、孤独死などの問題は日本でもきちんとした対策を積極的に取り組むべき課題だと思っています。
政府内に担当相を付けるかどうかについては日本はこれから議論かと思いますが、この孤独問題担当大臣は、2018年にイギリス・メイ政権下で生まれたことからその名前が世界中に知られるようになりました。
発端は、当時イギリスでは人口6560万人のうち、孤独を感じている人が900万人以上がいるとされ、友人や親戚と1ヶ月以上会話していないお年寄りは約20万人と推計されていました。イギリスの消費者協同組合の調査によると、孤独対策やメンタルサポートなどでイギリスの雇用者に年間35億ポンドものコストがかけられているとのこと。
英国国家統計局によると、16歳から24歳までの若者が65歳から74歳までの年金受給者よりも孤独を感じているとの報告もあるなど、あらゆる世代に対して社会的孤立が問題視されています。世代だけでなく、障害者や移民などの人々も孤独に大きく悩みを抱える傾向があり、マイノリティの立場ほど適切な支援を受けるのにも苦労していることが指摘されています。
孤独問題担当相は、地域におけるコミュニティ活動などと連携させながら、孤独問題に向けたファンドを組成して予算を確保し問題解決に取り組んでいく部署です。まさに、先のニュースレターでも紹介した「社会的処方」を省庁として取り組んでいくというわけです。対処の一つとして、世代間ケアホームなどがその例としてあげられています。TIMES誌の記事によると、1970年代に日本で開始された社会福祉法人江東園のケアホームと保育園を建設した取り組みなども参照しているとのこと。
2018年10月には、孤独問題に対する戦略も公開され、現在では9つの政府省庁からの60ものコミットメントが生まれています。戦略発表と同時に、1,150万ポンド相当の孤独問題に対処する初の政府基金を立ち上げ、イングランド全土の何千人もの孤独な人々の生活を変革する126のプロジェクトを支援しています。
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コロナ禍で加速する孤独問題に向き合うイギリス
そんなイギリスも、このコロナ禍で孤独問題への取り組みがさらに加速しています。2021年現在、3代目孤独問題担当相のダイアナ・バランのもと、2020年6月15日のプレスリリースでは高齢者や臨床的に脆弱な友人、家族、隣人に手を差し伸べるよう国民に呼びかけています。もちろん、妊娠している人、70歳以上の高齢者、または基礎的な健康状態にある人も含まれます。
孤独問題対策に向け、2019年から取り組んでいる#Let'sTalkLonelinessキャンペーンの一環として、孤独を感じているかもしれない人に手を差し伸べる方法、安全にボランティアをする方法などの情報発信などを積極的に行っています。同キャンペーンは、BBCやプレミアムリーグ、British Red Crossなど、英国中の様々な団体が賛同し、協力や連携しながら取り組んでいます。それだけ、イギリスにおける孤独問題への深刻さやその本気度がうかがえます。
キャンペーンの一つとして、6月15〜19日を「Loneliness Awareness Week」として様々な取り組みが行われています。その一環として、郵便局らと連携し、同期間郵送される郵便物の消印には“Let’s Talk Loneliness” とう表示がされるような活動が行われています。さらに、このコロナ禍においては、自宅にいる友人や知人、家族などとのつながりを確認するために手紙を送り合うことを推奨しています。手紙を書くことで74%もの人が精神衛生が改善されるという研究成果もあるほどです。