継ぎ手がいなくなる墓地の行方は #17

個人的なテーマの一つでもある「生と死」。そのテーマとリンクする、「墓地問題」について、先日、新聞の一面で大きく取り上げられていたので、その問題について深掘りしてみたいと思います。
江口晋太朗 2023.06.28
誰でも

🌟point of view

NIMBY(Not In My Back Yard)とは「社会的に必要だと理解しつつも、自分の近くには来て欲しくない」もので、保育園、ゴミ焼却場、原子力発電所といったものがNIMBYな施設と言われています。

以前のニュースレターでもNIMBY問題は「公共性」を問い直すものであり、そこにある「当事者性」とどう向き合うか、ということを指摘しました。

さて、そんなNIMBYの一つに「墓地」もしばしば上げられます。一般的に、自宅の隣に墓地はイヤだと思う人も多いはず。マンションやアパートの内見でも、窓から隣の墓地が見えるだけで住みたくないと思う人も多いのではないでしょうか。

先日、東京新聞の紙面に、このような記事が掲載されていました。墓地を引き継ぐ人がいなくなり、墓じまいをする人が増えてきているという記事です。

民法では、墓は祭祀財産と規定されており、いわゆる遺産相続の対象となる相続財産とは異なり、子々孫々での継承を前提としています。

いわゆる家族制度とも紐付いた墓地の継承は、これまで長男や同一姓の人が引き継ぐことを重要視してきました。最近ではそうしたことが難しくなってきたのか、長男や同じ姓である必要はしだいに薄まってきたかもしれません。とはいえ、いまだ家を守る、家を引き継ぐということと墓地とは切ってもきれないものといえます。

墓地の継承と無縁化

日本の墓が代々継承を前提としていることは、「永代使用権」という言葉からも見てとれます。

一般的に言う「墓を買う」とは、その区画を使用できる権利(永代使用権)を取得し、墓地運営者との間で墓地の使用契約を結ぶというものです。しかし、永代使用権は永久的に区画を使用できる権利ではなく、継承者がいる限り使用できるというものであるため、継承する人がいなくなれば永代使用権はなくなってしまいます。

仮に継承者がいたとしても、高齢化に伴う管理能力不足などから墓地の継承を断念するケースも多々あります。さらに、少子化の影響に伴う継承者の減少、もしくは継承者の不在、親戚づきあいの難しさなどから親族との縁が切れ、継承する人が現れないといったことなどから、「墓地の無縁化」が起きてきます。

無縁化とは「葬られた死者を弔うべき縁故者がいなくなった墳墓」と規定されていますが、実際には相当期間にわたってお参りされている形跡がないお墓のことを指します。しかし、相当期間のお参りがない状態とは具体的にどのくらいの日数かはあいまいで、明確な規定はありません。無縁墓と認められれば永代使用権は抹消されるため、墓地運営者は墓石を撤去してもよいことになっています。

高齢化が進む日本では、今後20年にわたって年間死亡者数の増加が見込まれ、墓地需要の対応が迫られてきます。代々のお墓を継承するだけでなく、新規のお墓の設置需要に伴う用地確保、つまり、現在のお墓の区画や用地が埋まっていた場合、新たにお墓のための土地確保が必要となります。

しかし、用地確保にあたってはまさにNIMBY問題として、近隣住民から墓地の拡張や新規の墓地区画の設置が反対されてしまいます。そうしたことから、無縁墓地の撤去が進んでいるという背景が存在するようです。

同時に、孤独死などそもそもで親族づきあいや周囲との縁が途切れている人も多い昨今、そもそも、お墓に入れない人もでてきています。特に、孤独死によって引き取り手がいない人達は、基本的には自治体で遺体を引き取り、火葬や委託している寺院に引き取ってもらい、集合墓にまとめられます。

今、この瞬間に生きていること、これから生まれてくる人達にとってどのようにより良い社会をつくれるかを私たちは考えがちですが、どのように「終わり」を迎えるかといった問題は、あまり公に議論されることがないテーマなのかもしれません。

生と死という根源的なテーマであるのもかかわらず、一般的にお墓問題は市場原理から切り離され、日常的に触れあうテーマではなくなってきたことについて、今一度、大きな社会問題として深く向き合っていく必要がありそうです。

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⚡︎news

「生と死」、それに付随するお墓問題、さらには「老いること」といった事柄は、個人的にも以前から関心のあったテーマの一つでした。書店に立ち寄った際にも、そうしたテーマを扱った書籍はついつい手に取りがちです。

先日見つけた本は、見出しから興味をそそるものでした。

ルポ 日本の土葬 99.97%の遺体が火葬されるこの国の0.03%の世界』というタイトルの本です。火葬が一般的(明治頃までは土葬も多かった)な日本社会では、土葬文化と出会うことは少ないかもしれません。しかし、世界を見渡せば、土葬文化は根強く存在します。

なお、日本の土葬文化については、日本で現存していた最後の土葬の村を記録した『土葬の村』も合わせて読んでみるとよいかもしれません。

以前、NHKのクローズアップ現代でも、外国人のお墓問題や土葬について取り上げたことがありました。

大分県では、宗教法人が取得した土地をイスラム教徒の土葬用墓地にする計画について、住民からの反対運動が起きているという、地域内における対立問題になっているところもあります。

お墓の背景には、こうした宗教的な問題によって生まれるものは少なくありません。人が生まれ、死ぬということは、それだけ、私たちの精神文化と切ってもきれないものであることが改めて浮き彫りになっていると感じます。

そんな土葬にまつわるルポをまとめた一冊が、『ルポ 日本の土葬 99.97%の遺体が火葬されるこの国の0.03%の世界』です。一般的な日本社会とは異なる文化背景をもった人達とどう折り合いをつけていくか。共生社会を考える上で、単純な日常生活のみならず、これらの生と死の問題も含めて、いかに「共生」していくかが問われているのではないでしょうか。

こんな本が、お店に入り口に入ってすぐの棚に面陳で置かれているのが、神保町にある「神保町ブックセンター」です。こうしたテーマを正面から堂々と扱う本屋やとても推せます。

岩波ブックセンター跡にできた「神保町ブックセンター」は、2018年にオープンした本屋・カフェ・コワーキングスペースの複合施設です。

この神保町ブックセンターのカフェやイベントスペース関連の企画をお手伝いすることとなりました。

新型コロナも落ち着きつつあるなかで、神保町ブックセンターも少しリニューアルいたします。本を軸としながら、今回、新たなコンセプトを設定し、文化発信の間口を広げ、本だけの魅力ではなく「本と〇〇」として、本と他の文化コンテンツをかけあわせ、神保町ブックセンターの魅力向上を図る取り組みを行っていきます。

本そのものを手に入れるのは、いまやECサイトなどで購入できますが、一冊の本というコンテンツを本棚というコンテキストによって陳列することによって浮き彫りになるメッセージや表現方法はまだまだあります。それに、自分が見たことのない本を教えてくれるのも書店の良いところです。

本屋という場所が、ある種の文化拠点の一つとしてどのように機能できるか、この神保町ブックセンターで考えてみたいと思います。

7月1日(土)には、私が司会をするトークイベントも開催されます。映画監督の深田晃司さん、音楽プロデューサーの福島節さんらをゲストに、本と映画、映画と音楽にまつわるトークを展開する。ぜひ、お時間ある人はご参加ください。

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🍹chatting

急に暑い日が続き、次第に夏らしくなってきました。夏至を過ぎると、まだ梅雨があけていなくても「これから夏だ!」って感じになりますね。

同時に、我が家の庭に生えた植栽や草花がにょきにょき成長してきて、また草刈りを頑張らないと、と思う日々です。今週末には家の近くの海岸では海開きで海の家もできてきました。暑い夏をどう過ごすか、今から考え中です。

写真は、子どもが通っているアートスクールで行われた、食べられる野草を探してきて天ぷらにして食べるというイベントの一風景。自然を味わう楽しさを、色んな子ども達とともに体験

写真は、子どもが通っているアートスクールで行われた、食べられる野草を探してきて天ぷらにして食べるというイベントの一風景。自然を味わう楽しさを、色んな子ども達とともに体験

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