NIMBYが持つ公共性への問い、そこにある当事者性
NIMBYとは、社会的に必要だと理解しつつも、自分の近くには来て欲しくないというものです。ここでポイントは「“我が家の裏庭”に置かないで」というところで、CIMBY(Come In My Back Yard:我が家の裏庭に来て!)とはならないのがキモです。
NIMBYを主張する人は、その施設の必要性を受け入れているものの、自分の家の近くには設置してほしくない。つまり、その言葉の裏には、その施設によってもたらされる利益を享受することは受け入れつつも、施設の設置によって誰かが被らなければいけない被害を受けたくはなく、ある種のフリーライドなものでありたいという気持ちがそこには存在します。
NIMBYを訴える人は、その施設の必要性は受け入れています。必要ないとは思っていません。それなのに、自分の家の近くにあるのはイヤ。つまり、誰か自分以外の人が犠牲となることを是としていると言い換えできます。
自分以外の人にイヤなものを押しつけ合う行為は、逆の立場から見ると、他の人にとってもその施設は来て欲しくないわけで、結果的に、あらゆる人によって、社会的なコストをできるだけ避け、苦痛や面倒事を押しつけ合う様が見えてきます。
社会学者の大澤真幸は、NIMBY問題の直接的な原因として高齢者が増加していることをあげると同時に、日本人の感覚において、死語にも続く「ヴァーチャルな生」がないことを指摘しています。大澤は、自分が死んだ後を生きる後の世代が、この施設によって幸せになり、その形によって自分自身も幸せになり、そうした幸せを感じる「私」は、死後もヴァーチャルな生を生きているという感覚が機能しなくなるときに、人はNIMBYとなる、と言います。つまり、自分という存在と他者との存在、およびその時間軸、そして現実世界における生活というものをどのように捉えることができるか、その想像力が衰えてきているからNIMBY問題が発生すると言います。
自己と他者との関係を俯瞰的に捉えた時に、単純な利己的な振る舞いではなく、他者が享受する便益をどのように受け止めるのか、そこにおける人の想像力のあり方とNIMBYはたしかに密接に関わってきそうです。
NIMBYが抱える公共性
とはいえ、誰かがその犠牲や面倒事を抱えなければ、社会は成り立ちません。その施設によって生まれる利益を享受する受益者と、その施設が隣接することによって騒音や異臭、環境汚染、精神的な負担といった被害を被る人が存在します。そして、その受益者と被害者は往々にして同じ地域におらず、距離が離れていることがあり、それもまた問題をはらんでいます。
保育園の建設では、高齢者が主に不満や反対をするというのも、自身における当事者性の不在による受益と被害の乖離からくるものです。自分が通わせるわけでもなく、かといって自分の子どもや孫が通う保育園でもない。直接的にも間接的にも自分自身に関わりのないものに影響を受けたくないという気持ちが働くのかもしれません。
ごみ焼却場は、建設予定の地域住民のごみ処理というよりも、近隣の都市部で大量に発生するごみを処理することが目的であることが多いでしょう。原子力発電所もまさにそうで、生み出された電気をメインで使うのは都市部のオフィスや住民で、しかしその原子力発電所があることによるリスクは、都市部ではなく地域住民が負うことになります。こうした構造によって生まれる不公平感は必ず生まれます。もちろん、原発そのものでいえば、単純なNIMBY問題のみならず、安全面や環境面などが議論を尽くされているのか、ということもありますし、日本における原子力の取扱そのものに対するあり方も問われてくるため、より大きな社会問題として捉え直さなければいけません。
ある論文では、NIMBYの施設の受益者である別の地域の人々が、施設の直接的被害を受ける地域の人々に対して無関心であるということも、このNIMBY問題を悪化させる要因であると指摘しています。
突き詰めれば、NIMBY問題は「公共性」を問い直すテーマとも言えます。NIMBYという問題は、受益しているが直接的に被害を受けていない、もっといえば影響をできるだけ遠ざけたいという人によって、その施設の諸問題を真っ正面から向き合いたくないもの。もっといえば、そうした構造にあるということそのものが抜け落ちていたり、問題そのものの認識していないことが多いかもしれません。けれども、直接的に被害を被っている人にとっては、それは大きな社会問題であると捉えており、そこにおける当事者性の乖離があるということです。
大澤が指摘した自分の死後にも現実は続くということへの想像力もしかり、その施設によって生み出さる便益と不利益の享受のバランス、そしてそれらを取り巻く当事者性のあり方など、あらゆる社会問題や公共性において、NIMBY問題と照らし合わせることで見えてくるものがあるかもしれません。
NIMBYについて、前回と今回でまとめましたが、まだまだ深掘りできるテーマでもありますので、折りに触れて考えていきたいと思います。
⚡︎news
世界発の多様な映画に心を寄せる
この冬に見た映画で良かったものの一つがインド映画の『RRR』でした。(実は上映初日に鑑賞!)『バーフバリ』の監督最新作ということで、3時間を超える上映時間もあっという間になるくらいの疾走感と大興奮の作品でした。(ナートゥダンス踊りたい!応援上映で何度も観たい!!塚口サンサン劇場で体感したい……!!!)
とりあえず、まだ観ていない人は、何も考えずに観て欲しい。

近年、インド映画のみならず『バッド・ジーニアス危険な天才』のタイ映画といった、世界各地で制作されている良質な映画が観られるようになりました。各地の映画には、お国柄や文化を反映しつつ、現代社会ならではの社会的なテーマを切り込んだりその国の歴史物といったものが作品に色濃く反映されています。A24のようなインディペンデント系の制作会社の台頭など、大手の制作会社の作品も注目されています。
ネット配信がある程度広がりを見せているとはいえ、まだまだ、各国や地域への配給や翻訳などを経た映画上映は主流です。そこには、上映にかかるコストや手間をクリアしなければいけず、数多ある作品のなかで、私たちが触れられるものはまだごくわずかです。
そんななか、小さなインド料理店が惚れ込み、配給にまでこぎ着けた『響け!情熱のムリダンガム』という南インド発の伝統打楽器ムリダンガムをテーマにした青春音楽映画が現在公開中です。この作品は、都荒川区にある「なんどり」という小さな南インド料理店の店主らが惚れ込み、配給にまでこぎ着けたというもので、昨今のインド映画ブームも後押しもあり、上映されている同作品も注目されています。
他にも、ロシアとの戦争中のウクライナ発のアニメーション映画に惚れ込み、ウクライナ支援と同時にウクライナのことを知ってもらう一環として、映画配給会社を自ら退職し、自身の配給会社を立ち上げ、クラウドファンディングを通じて『THE STOLEN PRINCESS(英題)』の日本語吹替版制作&全国公開支援プロジェクトを立ち上げるなど、世界中の様々な映画作品を後押しする動きがでてきています。
映画という芸術作品が持っている多様さや文化性を享受できることはとても豊かなことで、こうした作品をもっと多く鑑賞してみたいと思います。そして、大手の制作ではないこれらの作品を、少しでも知ってもらおうと、映画館や配給会社も頑張って上映にこぎつけるような活動をしています。現在上映中、もしくはこれから上映されるこれらの作品と出会ったら、ぜひ映画館で鑑賞してみてください。
📕topics
前回のニュースレターでも触れた『MEN 同じ顔の男』を鑑賞してきました。邦題にだけついてるサブタイトルですが、若干のミスリードを生むような気もしなくもないですが、そこで語られている、女性を取り巻く男性の振る舞いや姿が、ある種の一様さを持つことを踏まえて作品を観ることの意味はあると思います。(が、個人的には付けない方が良いかな、とも)
作品のラスト20分のシーンは必見で、ある種のカタルシスがあります。同作品は、ミソジニー映画と評されがちですが、それだけでもないようにも思えます。とはいえ、ネット上の言及だけで観た気になるよりも、ぜひ一度観た上で意見を交わさないとなかなか解釈や捉え方に齟齬がでるのではと思います。なので、観た人はどこまで語り合いましょう。ある意味で、2022年に観た映画でトップクラスにある意味入りました。
ディズニープラスで配信してる『FIRE OF LOVE』、良かったです。火山研究者夫婦を描いた作品で、彼らが残した多くの写真が映像をもとにしたドキュメンタリーです。日本の雲仙普賢岳の噴火で亡くなった二人で、火山研究を開拓した夫婦です。

#FireofLove is streaming November 11 on #DisneyPlus 🌋❤️
夫婦と火山のある種の三角関係、そして、火山に魅了され、火山にのめり込んだ夫婦の始まりから終わりまでを描いた作品は、映像美にとどまらない、人間と地球との関係を描いた作品で、ドキュメンタリー系の映画でも久しぶりに良い作品だな、と思いました。(音楽とナレーションがまた良いです)トレーラーだけでも十分に見応えあります。
🍹chatting
気がついたら年末。12月に配信は2本しか出せませんでしたが、2023年は定期的に出せるようにリズム作っていきます。news、topicsが両方とも映画ネタに気がついたらなってましたね……! 年末年始のタイミングにこそ、じっくりと鑑賞する映画に意識を向けてもらえたら、と思います。
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