孤立と向き合う「ケアするまち」のデザインとは? #7

健康やメンタルの問題、そこに横たわる「孤立」と「ケア」の関係について考えてみたいと思います。さらに、コモングッドトークシリーズと題したイベントも開始いたします。ゲストとともに、様々な問題について対話する場をつくっていきます。
江口晋太朗 2021.04.10
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以前のニュースレターで、健康とメンタルケアの問題や、イギリスの孤独問題担当大臣について触れてきました。

「コモングッド」というテーマの大きな一つとして、健康やメンタルは重要なテーマです。それは、物質的な豊かさから心の豊かさへと人々の関心が移りつつ時代において、人の心のありようについて探究することはとても重要です。

特に、この新型コロナウイルスの蔓延によって、ますます、人との物質的な距離に壁ができ、インターネットやSNSで他者とつながるものの、どこか、寂しさや孤独を感じてしまう環境になっていると感じます。

あらゆる仕事がデジタル化されると、一日中、パソコンの前に座って、ただキーボードを打って仕事をするか、パソコン越しに映る他者(時には音声だけの場合も)とのコミュニケーションばかりが日常化してきてしまいます。

しかし、人は、デジタルだけで生きているのではなく、五感を通じて他者とコミュニケーションし、そして、他者との関わり合いのなかで社会を形成していっています。

ドイツの哲学者であるハンナ・アーレントは、『全体主義の起源』で「隔離(isolation)」「孤立(loneliness)」「孤独(solitute)」という三つの言葉を区別して使っています。

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「隔離」とは、政治的な領域において、ともに行動できる人がいないから行動できない状態であることであり、「人々が共同の利益を追って相共に行動する彼らの生活の政治的領域が破壊された時に、この人々が追い込まれるあの袋小路のこと」を指します。

「孤立」とは、人間生活全般において、隔離されていなくても孤立を感じる(疎外感を感じる)こと。つまり、他者との結びつきや関係性が乏しく、それによって、個人の無力とともに行動する能力を阻害させてしまうことといえます。

「孤独」とは、1人でいることを必要とすることであり、存在は一人であっても、他者とのつながりは存在していることといえます。

ここでいうところの、まさに「孤立」こそ、人間社会において最も大きな課題といえます。「全体主義的支配は『孤立』の上に、すなわち人間が持つ最も根本的で最も絶望的な経験の一つである、自分がこの世界にまったく属していないという経験の上に成立っている」とアーレントは指摘します。

イギリスの孤独問題担当大臣も英語表記は「Loneliness Minister」。厳密に言えば「孤立問題担当大臣」であり、他者との関係性や結びつきを構築しながら、生きる力を促すような取り組みを図っていくことといえます。

医療福祉の現場においては、まさに、この「孤立」にどう対処していくかが大きな課題です。そしてそれは、診療所や病院のなかだけで起こることではなく、医療従事者が積極的にまちに出向き、地域でヘルスケアを実施するような潮流がまさに生まれています。「コミュニティナース」という取り組みはまさにその一つといえます。

つまり、「ケア」の問題は、私たちの社会のなかで起きているものであると同時に、人と人とが関わり合う、コミュニティに内在した問題でもあります。ひいては、ケアを通じて、地域コミュニティを育み、まちづくりを図っていく、まさに「ケアとまちづくり」という流れが起きています。

また、人が生きていく上で、ケアは生老病死すべてのステージにおいてかかせません。特に、高齢期になってくれば、認知症の問題や緩和ケアなどが必要となります。

医療行為はキュア(Cure)とケア(Care)に分類することができます。キュアは医療的な行為を通じて治癒、治療することですが、ケアは「世話をする」ことであり、完治はせずとも、その人に寄り添いながら痛みを和らげたり精神的な支えをしたりすることです。そして、健康においても、いかに栄養素を摂取していても、心、精神が不安定であったりすれば、すぐさま身体的な不調を及ぼしてしまうほどであり、心と身体の密接な関係こそ、今こそ向き合うべきものといえます。

では、具体的にどんな取り組みが行われ、それによってどのような効果や成果、また課題があるのか。このニュースレターでも継続的に情報をまとめていければと思います。

そこで、4月26日19時から、兵庫県豊岡市で「社会的処方」を実現するため、医療者が屋台を引いて街を練り歩くYATAI CAFEやシェア図書館「だいかい文庫」などを運営する、一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事の守本陽一さんをゲストにお迎えし、「社会的処方」やそれにまつわる孤独、孤立の問題、これからの医療とまちづくりの関係について、幅広く議論する時間にできたらと考えています。

このトークは、ニュースレター「コモングッドをもとめて」と学芸出版社によるコラボのもと、「コモングッドトーク」というトークセッションシリーズを定期的に開催するシリーズの一環です。今後、継続的にイベントは開催していきます。また、このニュースレターの購読者限定で、イベントレポートも掲載していきます。

2回目は5月中旬頃を予定しています。内容決まりましたら、ニュースレターでお伝えいたします。

【イベント概要】
日時|2021年4月26日(月)19:00〜21:00
会場|オンライン(Zoomミーティング)
配信URL|お申し込みいたいだいた方に、peatixメールにてお知らせ致します。
参加費|一般参加:1000円
定員|100名
主催|株式会社トーキョーベータ、学芸出版社(コモングッドをもとめて×がくげいラボ コラボ企画)

<ゲスト>
守本陽一(もりもと・よういち |一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事/公立豊岡病院組合立出石医療センター総合診療科医員

1993年、神奈川県生まれ、兵庫県出身。新・家庭医療専攻医。学生時代から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)や地域診断といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。2020年11月に、一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立し、代表理事に就任。社会的処方の拠点として、商店街の空き店舗を改修し、シェア型図書館、本と暮らしのあるところだいかい文庫などをオープンし、運営している。YATAI CAFEでソトノバアワード2019審査員特別賞、兵庫県人間サイズのまちづくり賞知事賞受賞。共著に「ケアとまちづくり、ときどきアート」など。

*以下、購読者限定にて、イベントの割引コードを配布いたします。

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